TCFD提言に基づく情報開示

FSB(金融安定理事会)の設置したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)より、最終報告書「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」が2017年6月に公表されました。新東工業グループは気候変動に関するシナリオ分析等を行い、2022年6月、TCFD提言への賛同を表明しました。

主力の鋳造事業等、エネルギーを使用する新東工業グループにとって、カーボンニュートラルは喫緊の課題と捉えて活動を推進しています。2017年には、創立100周年に向けて「環境経営」の方針を策定し、「エコプロダクツ・サービス(環境配慮商品の提案活動)」「エコファクトリー(省エネルギー活動)」「エコロジスティクス(物流の効率化活動)」の3つの活動により、CO2排出量の削減と情報開示に取り組んでいます。

ガバナンス

社長を委員長とするサステナビリティ委員会において、当社グループにおける気候関連のリスク及び機会を識別し、評価します。サステナビリティ委員会の決議事項は、取締役会に報告、監督されています。

サステナビリティ委員会

リスク管理

サステナビリティ委員会にて、気候関連のリスクが大きいと評価された項目は、リスク管理委員会と情報連携し、統合的にリスク管理します。

戦略

産業革命前の世界の平均からの気温上昇が2℃を十分に下回る(2℃未満シナリオ)と4℃の場合(4℃シナリオ)について、世界観を想定しました。

シナリオ 世界観 主な参照先
2℃未満シナリオ

脱炭素社会への移行に伴う変化が事業に影響を及ぼす
(主として、移行リスク)

  • 気候変動に関する規制が強化され、炭素税導入、電源構成の非化石燃料化、自動車産業の電動車へのシフトなどが発生する
  • 社会全体が脱炭素に向かい、企業の脱炭素への取り組みが評価され、工場、事務所等における脱炭素化設備の導入が進む

WEO2022(APS)、
IPCC RCP2.6等

4℃シナリオ

気象変動による物理的な被害が事業に影響を及ぼす
(主として、物理リスク)

  • 気候変動に関する規制は導入されるものの限定的
  • 異常気象の激甚化が進み、自然災害が頻発
  • 気温上昇により、労働環境の悪化、地域によっては取水制限等が生じる

WEO2021(STEPS)、
IPCC RCP8.5等

2℃未満、4℃シナリオについて、当社グループに重要な影響のあるリスク・機会を洗い出し、財務への影響額を算定するとともにサステナビリティ委員会において影響額の大きなリスク・機会を認識し、対応策を審議しました。引き続き他のリスク、機会のさらなる分析、対応策の検討などを進め、TCFDフレームワークに基づいた情報開示を強化していきます。

試算の結果、影響が大きいと特定された気候変動リスク・機会は以下の通りです。財務への影響評価を行い、今回は炭素税の導入、低炭素技術への移行、極端な気象現象の増加、CO2低排出製品・サービスの拡充について、対応策を検討しました。

大分類 中分類 小分類 特定された気候変動リスク/機会
移行リスク 政策と法 炭素税の導入
  • 炭素税の支払いによるコストの増加
  • 炭素集約度の高い素材の仕入コストの増加
省エネ政策の強化
  • ガソリン車市場の縮小による売上の減少
技術市場 低炭素技術への移行
  • 既存生産設備の早期更新によるコスト増加
  • 環境配慮商品・サービスの開発遅れによる売上の減少
  • 環境配慮商品・サービス開発のための研究開発費用の増加
市場 エネルギー市場の変化
  • 再生可能エネルギーへの切り替え等に伴うエネルギーコストの増加
物理的リスク 急性 極端な気象現象の増加
  • 洪水頻度の増加による営業停止、売上機会の損失
慢性 平均気温の上昇
  • 気温上昇に伴う暑熱対策コストの増加
  • 渇水による取水制限による工場操業停止、操業コストの増加
機会 資源効率性 生産効率の向上
  • エネルギー使用削減等による工場操業コストの削減
エネルギー源 再エネ政策の利用
  • 再生可能エネルギー関連産業向け売上の増加
製品・サービス CO2低排出商品・
サービスの拡充
  • リサイクルサービスの拡大による売上の増加
  • 環境配慮商品・サービスの開発、拡充による売上の増加
市場 新市場の創出
  • EV市場における売上の増加

対応策①
炭素税の導入によるコストの増加

リスク・機会の認識
  • 気候変動対策として各国政府により炭素税が導入され、支払コストの増加をリスクとして認識しました
  • 当社主要原材料の一つである鋼材について、製造企業への炭素税導入に伴い仕入価格が上昇する可能性をリスクとして認識しました
影響評価
  • 2℃未満シナリオでは、炭素税支払いコストとして当社単体で約4億円、鋼材価格上昇コストとして約12億円の費用増が見込まれます
    • 炭素税支払い:2030年のScope1,2におけるGHG排出量に炭素税価格
      (WEO2022のAPS価格135USD/tCO2)を乗じて算出
    • 鋼材価格上昇:直近の鋼材使用量に鋼材のCO2排出原単位(環境省サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.2))および炭素税価格(WEO2022のAPS価格135USD/tCO2)を乗じて算出
対応策
  • グループのScope1および2の削減目標を2022年度に刷新し、2021年を基準として、2030年で24%(2034年で32%)の削減を目指します
  • 目標達成に向けて再生エネルギーへの転換を進め、削減目標達成を目指します

対応策②
低炭素技術への移行によるコストの増加、CO2低排出製品・サービスの拡充による売上の増加

リスク・機会の認識
  • 炭素税の導入などに伴い、ステークホルダーが、環境に配慮した製品、特に低CO2排出量製品を求める可能性をリスクおよび機会として認識しました
  • CO2排出量の少ない製品の開発に向けて、研究開発費用の増加の可能性をリスクとして認識しました
影響評価
  • 2℃未満シナリオでは、環境配慮製品・サービスの販売シェア増減により約11億円の増減、研究開発費として約1億円の増加が見込まれます
    • 環境配慮商品・サービスの販売シェア:環境省「環境産業の市場規模・雇用規模等の推計結果」より、2030年日本の気候変動関連市場が25%成長すると設定。当社の環境配慮商品・サービスの売上高に、市場成長率を乗じて算出。リスクは機会の裏返しで市場拡大に合わせた他社伸長により、当社がシェアを失うと想定
    • 研究開発費は、現状の費用の約2倍程度とするものとして試算
対応策
  • 環境分野における研究開発費は必要な投資として積極的に増加し、市場ニーズに応える製品の開発を進めます
  • 特に新規事業部門において、採用の強化・育成、他社とのアライアンス等により競争力の向上を図ります

対応策③
洪水等、極端な気象現象の増加による売上機会の損失

リスク・機会の認識
  • 気候変動が継続する4℃シナリオにおいて、海外子会社を含めて洪水、高潮、渇水等の気候変動に伴う極端な気象現象の増加をリスクとして認識しました
影響評価
  • 4℃シナリオでは、水害による工場停止に伴い、国内では1拠点で0.4億円、海外では7拠点で5.5億円の機会損失が見込まれます
    国内

    ハザードマップより、洪水リスクの高い拠点として大治拠点を特定。国土交通省「治水経済調査マニュアル」「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言改訂版」における災害頻度の増加、浸水深度に応じた営業停止日数等から営業停止による機会損失影響金額を試算

    海外

    保険会社調査に基づき、特に洪水等水害リスクの高い拠点として、7拠点を認識(ブラジル他)。タイ、ドイツでは過去に洪水被害が発生し1回につき0.2億~1.5億円程度の機会損失が発生

対応策
  • 当該拠点については、すでに重点的なBCP計画を策定し、従業員に対して災害対策の個別教育プログラムを実施済みです。またリスクの高い拠点に対し、水災担保保険を付保するとともに水害対策として、大治事業所において、既存工場の止水板や新工場の嵩上げを含めて22億円を投資しています

現在の株価

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