トップメッセージ ものづくりの心と技術を未来につなぐトップメッセージ ものづくりの心と技術を未来につなぐ

ものづくりの心を大切にし、世界に通用する技術を追求してきた私たちは、その原点を忘れずに、社会や環境の変化に向き合い、これからも新たな付加価値を生み出し、社会を支えていきます。

Q. 近年の新東工業を取り巻く事業環境について教えてください。

新型コロナウイルス感染症は、世界経済に深刻な影響をもたらしました。中でも、各国の製造業において、大きな打撃となったのが国際物流の混乱です。港湾機能の低下により、海上輸送が停滞するなど、サプライチェーンが寸断された結果、輸送遅延や部材の供給不足が発生しました。加えて、世界的な半導体不足も重なり、自動車業界など多くの産業で生産抑制が続きました。

当社でも、制御系機器など、資材の調達難が生じ、生産活動に大きな影響が出ました。また、海上輸送から航空輸送への切り替えなど、緊急的な対応を講じる中で、物流コストの上昇にも見舞われました。さらに、鋼材、スクラップなどの原材料価格やエネルギー価格の急騰への対応にも追われました。徐々に正常に戻りつつありますが、これまでものづくり現場で重視されてきた「コストダウン」や「納期遵守」と逆行するような、厳しい状況が長期化しました。

一方、コロナ禍により当社の働き方も大きく変わりました。当初はある程度の時間をかけて、業務のデジタル化を推進する計画を立てていましたが、コロナ禍の中でスケジュールを前倒しし、リモートワークやオンライン会議を即座に導入しました。また、世界中で人の移動が制限され、日本から海外拠点に現地指導員を派遣することが困難になる中、デジタル技術を活用した遠隔指導も実施しました。結果的に、各拠点の技能向上や対応力強化につなげることができたとも考えています。

Q. 1年間の企業活動を振り返って、どのように評価していますか。

当社の商品は、これまで自動車や航空機、鉄鋼、造船などの業界を中心に用いられてきましたが、近年は新しい分野での活用も広がりつつあります。特にこの1年ほど、着実な伸びを見せているのが、一次産業分野での活用です。インドやトルコなどの新興国を中心に、農業分野への投資が活発に行われる中、当社の鋳造技術を活用した設備への需要が高まっています。また、昨今の環境意識の高まりから、次世代エネルギー関連分野での大型案件も増えてきました。

また、ものづくり現場には、粉塵による火災や爆発のリスクが常に存在しています。火災や爆発が起こると、生産活動に損失を与えるばかりか、従業員や周辺住民、環境にまで重大な被害を及ぼす恐れがあることから、当社では火災リスクを限りなくゼロに近づける粉塵火災対策システムを開発しました。現在、同システムの有効性のPRを進めながら、SDGsにつながる"安心して住める街づくり" "安心して働くことができる職場"に向けて終わりのない挑戦を続けています。

さらに、少子高齢化による労働力の減少、作業負荷の増大への対応といった社会課題の解決に向けて、「自動化」に関する製品開発も進めています。中でも内外から高い評価を受けているのが6軸力覚センサです。ロボットが人と同じ作業を行うためには人間のような感覚を認識するセンサが必要となりますが、当社の6軸力覚センサを取り付けることで、ロボットに力の感覚を持たせることができます。すでに国内主要ロボットメーカーで標準採用、またはオプション採用されているほか、当社広告「できる、ロボットへ(6軸力覚センサ)」が「第9回(2023年)日経BP Marketing Awards」(日経BP社)においてグランプリも受賞しました。また、当社では設備導入後も安心してお使いいただくために、アフターサービスの充実に力を入れています。世界各地に納入した設備を突発的な故障で止めないことを目標にサポートネットワークを整備し、高度なスキルを持った人材が設備の点検・調整・修理などを行うだけでなく、デジタル活用によるタイムリーなサポート体制の構築に向けて、各種データを収集しながら、納入した設備の状態をタイムリーに監視できるシステムも提供しています。部品の交換時期や異常発生の兆候の把握につながり、設備の突発的な故障も回避できるとともに、少人数で設備の保全業務が行えるようになりました。

Q. さらなる成長に向けて、新東工業の強化する分野は何ですか。

「素材に形をいのちを」を事業理念に掲げる当社は、自動車エンジン用の鉄を鋳造する砂型造型機を日本で初めて製造して以来、鋳造設備に関連した製品・サービスを提供し続けてきました。

さらなる成長のためには、少子高齢化やライフスタイルの変化、情報技術の進展、産業構造の変化などに伴い、大きく移り変わろうとする市場ニーズへの対応が不可欠です。そのためにも事業領域の拡大を進めていきます。特に進化させていくのは、「素材の2次加工」「形づくりのデジタル化」「表面加工による機能付加」です。

「素材の2次加工」としては、素材としてのセラミックスに着目し、新たな付加価値を与える材料開発を推し進めています。セラミックスメーカーとも連携を深め、技術の向上に磨きをかけています。また、市場が求める粉末の微粒化に対応するため、1ミクロンレベルの粉末の生産を手掛けています。

「形づくりのデジタル化」に向けては、3Dものづくり技術を積極的に活用していきます。これまでも3Dプリンターを用いて、様々な分野で精度の高い部品の造形を実現してきましたが、さらに事業領域の拡大に努めてまいります。

素材表面の性状や形状を変化させ、新たな機能を創り出す「表面加工による機能付加」に向けては、すでに自動車メーカーとの連携のもと、鉄と樹脂を水で接合する技術開発を進めています。接着や組立工程をなくすことで生産工程のシンプル化やコストダウンに貢献します。今後も高度な機能を満たす表面性状の実現のため、こうした異種材料接合に取り組んでまいります。また、刀制作において、熱した刀を叩いてより頑丈で長持ちする状態へと仕上げる「鍛造」が行われるように、表面加工においても、強度向上は欠かせません。そこで、表面を鍛える各種のショットピーニング技術を用い、表面性状を改質することで、部品の軽量化や疲労強度・耐久性の向上などを図ってまいります。

当社の主力事業である「鋳造事業」においては「軽量化素材へのシフト」「先進国から新興国へのシフト」カーボンニュートラルをはじめとした「新たなニーズへのシフト」という3つのシフトへの対応を積極的に進め、これまで以上に素材の軽量化、商品のグローバル展開、商品・サービスの多様化を進めます。

安定した収益構造を持つ当社は、財務的にも安定した基盤を構築してきました。従来は経営の健全性の観点から、当社の強固な財務基盤は内外から高い評価を受けてきましたが、より事業領域を拡大し、企業価値の向上や持続的な成長に結びつけるためにも、保有資産を積極的に活用し、成長への投資を進めていくことが大きな課題となっています。

その観点から、当社ではこれまで培ってきた要素技術に新たな技術を融合させ、新商品づくりにつなげようと、ベンチャー投資を活発に推進してきました。その成果として、自動化・ロボット分野、医療・介護分野、食品分野など、多くの分野で新たな芽を生み出すことができました。まだ事業規模は小さく、当社の収益力強化には至っていないものも少なくありませんが、これらの新たな分野を社会課題の解決に貢献する新事業として育てていきたいと考えています。同時に、企業価値向上につながる案件に関しては、M&Aや技術提携にも積極的に取り組んでまいります。

キャッシュアロケーションにおいては、成長投資を展開する一方で、安定的・継続的な株主還元を実行していきます。配当については、短期業績変動の影響を低減する観点からDOE(株主資本配当率)を基準として実施し、自社株購入はキャッシュポジションや株式市場の動向などを勘案し適切に対応してまいります。

グローバル化への対応については、海外拠点の取り組みが重要になります。当社グループは、全世界約4000名の社員のうち、約1800名が海外の社員です。世界各地に拠点を置き、ネットワークを形成しています。海外拠点のマネジメント比率も高く、主要な海外拠点27社のうち21社のトップは現地のスタッフに任せ、現地パートナーとして志の共有を図っています。

鋳造という切り口で海外拠点ネットワークを構築してきましたが、今後求められるのは、海外拠点のさらなる進化です。本社と方向性を常に共有しながら、それぞれの地域特性やニーズを的確に捉え、各拠点のニーズに合わせた現地での事業を創り出してもらう。そうした海外拠点を核としたグローバル展開を図っていきたいと考えています。また、ほかの地域でも応用できる成功事例が出てくれば、即座に当社のネットワークを生かして、各地で横展開を図ってまいります。

Q. 新東工業が実現したい社会のあり方や目指す企業像について教えてください。

当社は事業や社会貢献活動を通じて、「環境にやさしい循環型社会」「ものづくりを通した安心・安全・豊かな社会」「感動・成長・幸せを実感できる社会」を目指しています。これらの実現に向けては、当社だけでなく、サプライチェーン全体を見据え、取引先の皆さんとも力を合わせて取り組みを推進することが重要との考えから、当社の環境方針や規制物質の使用禁止、紛争鉱物の取扱禁止、人権への配慮や安全衛生の確保など、取引先の皆さんに遵守いただきたいことも明記した「SINTO取引先ガイドライン~子供たちの未来のために~」を策定しました。現在、このガイドラインに基づきながら、関係者一丸となって環境対策などを進めています。

さらに、全ての社員が地域での社会貢献や健康への意識を高めることを目的に、昨年は創立88周年を迎えたことを記念して、国内外の全グループ各社の参加の下、ジョギングしながらゴミを拾う「プロギング」を行いました。また、社員一人ひとりが主体的に社会課題の解決につながる活動を進めるきっかけにしてもらいたいと、当社ではSDGsの目標に「自分ごと」という新たな18番目の項目を独自に設け、社員の積極的な社会貢献活動への参画を後押ししています。

当社はものづくりの心を大切にして社会に貢献したいという思いの下、世界に通用する技術を追求することで発展してきました。これからもお客さまから「ありがとう」と言われる企業を目指してまいります。そのためにも、HEARTの精神に基づき、社員一人ひとりが世界に通用する技能、技術を身に付け、進化していくことが欠かせません。

当社では人事管理の根幹となる考え方として「活人主義」を大切にしています。当社の事業活動に携わる社員には生きがいを持って活き活きと働いてほしいとの考えからです。自分の人生の目標と、社内の方針のベクトルが合っていれば、社員はより意欲的に仕事に取り組み、自分の技能を高めようと努力していくものと考えます。そのためにも、当社では能力向上を目指す社員に報いる人事評価に努めるとともに、それぞれが培った能力を最大限に発揮できる場を提供してまいります。

同時に、当社ではお客さまに選ばれ続けるために、充実したアフターサービスを通じて、定期的にお客さまを訪問し、設備使用上の課題や困りごとを確認するとともに、お客さまの良き相談相手として、そうした困りごとや課題へのベストな解決策を提案していき、お客さま満足度の向上を図ってまいります。

その成果指標として、当社は「新規お客さま数」を掲げています。どんなに景気の浮き沈みがあっても、当社を選んでくれるお客さま、何かあれば当社に相談してくれるお客さまを増やしたい。そして、一社一社のお客さまを大切にしながら、私たちに関わる全ての皆さまとの絆を深めて、いつの時代も選ばれ続ける企業を目指してまいりたいと考えています。

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